この世は、一度失われた。
それは天地再生、神話の一文。
実しやかに語られ続けるこの物語は、遠き昔の話。
それ故、真に正しいのか誰も知らない。
いや、語るのは人間という生き物であり過ちも多い。
何故、真実を知ろうとしないのか。
それは、恐れか戦慄きか。
それとも、数百年の時の流れが崩壊するのを拒んでいるのか。今まで偽りを教えてきたことへの傲慢。
いや、過信が邪魔しているといった方が正しい。
だから真実への追求を封じる。
しかし、私は知りたい。
この世界の正しい姿を――
どれが正しくて、どれが間違いなのか。今ある現実をひとつひとつ神話を紐解いていき、その意味を解明していく。
そうすれば自ずと、真実が明るみになるだろう。
真実は決して隠し通せるものではなく、いつか白日の下に晒される。
だが、真実は時として非情な一面を見せる。
真実は、誰に対しても非情に振舞うことはない。
真の探求者は受け入れ、封印された扉を開く。これこそ驕りというべきか、私はその資格を持っていると自負している。
だから、扉を開く。
明かされた現実に、驚愕を覚える。
人間が知るべき真実は、何とも悲しいものか。
これが真実というのなら、我々人間は罪深き者。
いや、人々は咎人の烙印を押されていることさえ知らない。
事実が葬られた。
それが現実。
◇◆◇◆◇◆
天から落下する無数の水滴が、窓を激しく叩いている。
先程まで静寂に包まれていた大地に嵐が近付いているらしく、木々は激しく左右に揺れ木の葉を天高く舞い上がらせていた。
「嫌な天気だ」
そのように呟いたのは、二十代前半の男。
薄暗いランプの明かりに照らされた彼のいでたちは学者そのもので、この建物に篭って特別な研究を行っている。
それはこの男だけではなく、この建物の中にいる者達は皆男と同じ学者の服を纏い彼と同じ方向へ視線を向けていた。