……私が勝手に、すきになっただけだと思ってたの。

勝手に、すきになったから。だから教室に彼のかばんが残されているのを見つけて、1日中渡すタイミングをはかってたチョコを、速見くんの迷惑にならないようだったら渡したいって。

女の子からの呼び出しに大忙しだった彼が、もしその中から彼女になる人を見つけていたら、それは仕方ないって。

そのときは、何でもないフリをして。ただ「また月曜日にね」とだけ言おうって。

そう、思ってたんだよ、速見くん。



「……速見くんだよ」

「え、」



驚きに満ちた声と同時に腕の力が緩んだのを見計らって、私は顔をあげた。

勇気を振り絞って、その頬に片手を伸ばす。



「ばかだなあ、速見くん。あのチョコは、速見くんにあげるつもりだったの」

「え、え?」

「バレンタインデーにチョコを渡したいと思ったのは、速見くんだけだよ」



この、力強く私を包む腕のあたたかさが、自惚れじゃないんだとしたら。

今、彼に、想いを伝えていいんだとしたら。



「……速見くん、すき」

「──、」

「すき、だから。チョコを渡したくて、待ってたの」



震えるくちびるで告げると、速見くんがそっと私の頬に指先で触れた。

視線の先で、彼がとてもうれしそうに笑う。



「……俺も。委員長、すき」



──地味で卑屈な私にこんな逆転ホームラン打たせるなんて、やるじゃないバレンティヌス。

こっからは私ががんばるから、ちゃんと応援しててよ。



どうか、恋する女の子たちに。バレンティヌスのしあわせな悪戯が、舞い降りますように。





\ Happy Valentine to you!/










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