突然ですが、同じクラスの速見くんは、とても意地悪です。


件の彼は、藤宮高校2年D組出席番号15番。すらりと高い身長に、細すぎでも太ってもいないバランスの良い体格。ワックスで遊ばせたダークブラウンの髪型に、まるでモデルみたいなちっちゃい顔。左目下の涙ぼくろがまたエロくていい!と女子の間で評判の、世に言うイケメンってやつ。

ちなみに私、高橋 ななせ 出席番号30番。1度も染めたことのない胸まで伸びた黒髪に、地味なフレーム付きメガネ。化粧なんてもっての外、クラス推薦で学級委員長とかなっちゃうような、真面目キャラが定着している立ち位置。で、彼とはまるで正反対な感じ。

すばらしく恵まれた容姿の速見くんは、後輩にも同級生にも先輩にもモテモテで……だけどみんな、あの見た目に騙されてると思う。

一見まるでどこぞのアイドルみたいな彼はその実、とんだ腹黒性悪ヤローなのだ。


こないだだって、体育の授業で突き指してグロテスクな感じになっちゃってる人差し指を、「いいんちょーこれ見てよ」なーんて軽い調子で、わざわざ私に見せつけてくるし。

席が前後になったときは、授業中私の髪の毛でめちゃくちゃな三つ編みとかして遊んでるし。

私が飲んでるブリックのジュースを、あっさり横から奪ってったりするし。

学校祭のとき、クラスTシャツにでかでかと『我学級委員長夜露死苦』って油性マジックで書かれたし。


──はい、回想ここまで。クラスメイトの速見 悠成は、やっぱりゲスくて腹黒で意地悪認定。


……だから。

だから──……。



「……はやみ、くん……?」

「………」



私と彼以外誰もいない、薄暗い放課後の教室で。

今まさに、速見くんがきつく私のことを抱きしめているこの状況も。

きっと、新手の意地悪なんだって。混乱した頭のまま、だけどどこか冷静に、そう思ってた。