負け犬も歩けば愛をつかむ。

「し、いなさ──」

「無防備に寝られて何もしないでいられるほど、俺は忍耐強くはないんだよ」



口調は優しいのに、力強い眼差しと覆い被さる身体に威圧されてまったく動けない。

そんな中、心臓だけがドクドクと激しく動き回っていた。



「誰でもいいわけじゃないけどな……千鶴」



──こんな時に、そんな甘い声で名前を呼ぶなんてズルい。

私があなたのものになれたのかと錯覚してしまう。

でも、夢でもいい。その幸せな幻想に溺れてしまいたい……

そう願う私に抵抗する気なんてなく、彼の顔が近付くと静かに目を閉じた。



「──ん」



久しぶりの、柔らかな唇の感触にピクリと反応する身体。

何度か優しく触れ合った後、私が漏らした声が合図にでもなったかのように、キスは激しさを増していく。

自然と開けた口には彼の舌が割り込まれ、吐息を絡ませながら溶けるような口づけを繰り返した。


私、椎名さんとキスしてる……?

まだ信じられなくて少し目を開けると、間違いなく端正な顔の彼が私を味わっていて、そう実感するとさらに身体が火照っていく。

再びギュッと目を閉じると、彼の唇は首筋に移り、手は腰のラインを艶めかしくなぞった。



「あ……っ」



思わず声を上げて腰をくねらせると、顔を上げた彼が色気たっぷりの困り顔で笑う。