負け犬も歩けば愛をつかむ。

チーフとはいわゆる厨房内の責任者で、メルベイユと、本社から来るマネージャーと密接に関わる立場。

社員食堂やレストラン等の外食事業を展開する私達の会社は、本社が同じ市内にあるものの、調理員はほとんど本社に出向くことはない。

そこで、本社と私達とのパイプ役になるのがマネージャーという仕組みだ。


新しい厨房で、新しい仲間と、しかもそんな責任者として働くなんて……と、最初はあまり気が乗らなかったのだけれど。

このスルスを見学しに来た時、厨房から食堂へ出てみてびっくり!


清潔感溢れる白い内装と、アンティーク雑貨としてそのまま売れそうな椅子やテーブル。

お洒落な照明やハンドメイド風の小物が、いいスパイスになっている。


そして真っ白で広々としたカウンターには毎日数種類の料理が並び、社員達は木製の大きなお皿に好きな物を盛って食べるビュッフェスタイル。

今まで私が働いていた社食の、A定B定だの、うどんだのカレーだのというレベルじゃない。

もはやレストランと呼ぶべきこの場所を見て、私の中の社食という概念が覆されたのだった。


驚きとともにやる気が出てきた私は、すぐに異動を承諾した。

チーフという責任を負うことに多少躊躇いはあったものの、スルスのメンバーも皆いい人そうだったし。

……まぁ一つだけ問題があるとしたら、私も含め四人のメンバーが皆、俗に言う負け組に入るということくらいだろうか。