負け犬も歩けば愛をつかむ。

皆に温かい目で眺められると、やっぱり恥ずかしいことを言った気がしてくる。


「でも私は、人のために何かいいことしてるわけじゃないからなぁ」



照れ隠しも含めての本音をこぼすと、椎名さんは突然こんなことを口にする。



「そんなことない。肝心なこと忘れてるよ」

「肝心なこと?」

「“スルス”ってどういう意味か知ってる?」



……そういえば考えたことなかったな。

三人も知らないようで、皆一様に首を横に振る。



「“ラ・スルス”っていうのは、フランス語で“源”って意味らしいんだ。きっと人の身体の源になるのが食事だから、そういう名前にしたんだろうね。
皆はその源を毎日作ってるんだから、立派に人の役に立ってるよ」



……さすが。他人まで温かい気持ちにさせてくれる、この前向きな考え方には尊敬する。

ビールを飲み終わり、お水が入ったグラスを手に取る彼を見ながら、やっぱり私はこの人が好きだと思った。



「さっすがマネージャー、いいこと言う! じゃあ、日々世のため人のために働いてるあたし達に、カンパーイ!」



ほろ酔いの真琴ちゃんのハイテンションさで、彼の発言はなんだか軽いモノになっちゃった気がするけど。

いつか私達にも幸せが訪れることを願いながら、笑い合って再びグラスを合わせる。

──その瞬間、事件は起こった。



「あれ? 俺の焼酎……あ゙」



頼んでいたらしい焼酎を探す水野くんの視線が、ある所で止まる。

目線の先にいたのは、お水と勘違いしてゴクリと喉に流し込んでしまった残念マネージャーの姿だった。