休憩室に戻ってきた私達は、これからの仕事のことで少し話をした。

いつの間にか、二人きりでいることに変な意識はしなくなっていたけれど、真面目な表情の椎名さんにはドキリとする。



「……てことで、今度から発注のソフトが変わるから。今まで手書きでやってたのもあったと思うけど、全部パソコンで出来るようになる」

「へぇ……じゃあ多少やりやすくなるんですね」

「そうだね、やり方さえ覚えれば。また今度教えに来るから」

「はい」



すると、椎名さんは何かを思い出したように懐に手を入れ、そこから取り出したものを私に差し出した。

それは“椎名 幸斗(シイナ ユキト)”という名前と、携帯の番号が書かれた名刺。



「何かあったらいつでも連絡して」

「ありがとうございます」



何も気にしない素振りでそれを受け取る私だけれど。

心の中では、携帯の番号ゲット!とガッツポーズ。

……いや、もちろんただ仕事だからってのはわかっていますとも。


でも。昨日は赤の他人として出逢ったのに、今ではもう私の上司で、こんなに近くでちゃんと向き合って話せているなんて。

よく考えるととても不思議で、すごいことだなと思う。