「私より小雪ちゃんを溺愛してるような気がしてならないんですよ。ついこの間も、せっかく一緒の休みだったのに『首輪買ってくる』って一人で出掛けちゃうし」



トイプードルの小雪ちゃんに嫉妬する私に、園枝さんは心底おかしそうに笑っていた。


実はこれまで何回か幸斗さんの実家にもお邪魔していて、小雪ちゃんにも会っているのだけど。

彼は本当に犬好きらしく、初めてデレデレした姿を見て驚き、かつ嫉妬したのだった。

たしかに小雪ちゃんは可愛かったし、ものすごく癒されたけれど……私の中では敗北感が拭えない。

ライバルが小雪ちゃんだというのは、あながち間違いじゃなかったのかも。



「犬に負けるなんて、真の負け犬じゃないか」



……ん? なんか今、不吉な空耳が聞こえたような。

忌まわしい腹黒狼の声でぼそっと。



「さ、今度は披露宴ね! 私ちょっとお手洗いに行ってくるから先に行ってて」

「あっ、はい!」



いつの間にか新郎新婦は退散していて、園枝さんもささっと室内へ向かう。

やだなぁ私、こんなめでたい日に幻聴が聞こえるなんて、どうかしてる。ここに専務なんているはずないのに。

気を取り直して私も中へ入ろうとすると。



「春井さんもドレスアップすればそれなりに見えるな。馬子にも衣装とはよく言ったものだ」

「ひゃあぁ!?」



真後ろから今度ははっきりと声が聞こえ、背筋にゾクゾクッと悪寒が走った。