負け犬も歩けば愛をつかむ。

「なんか、急にものすごい脱力感が……」



愛車のもとにたどり着き、よろよろとそれにもたれ掛かると、椎名さんが心配そうに顔を覗き込む。



「大丈夫?」

「あは、平気です。ちょっと小雪ちゃんが犬という事実に驚愕しただけなんで……」

「いや、単純に疲れたんじゃないか? まだ完全に体調良くなったわけじゃないのに、こんなに長く働かせて悪かったな」



あ、そういえば。風邪の症状は咳と鼻水くらいだけれど、足腰は重いし身体全体がぐったりしている。

仕事中は忙しさで紛れていたけど、確実に疲労が溜まっていることを今実感した。



「これで連休だからゆっくり休んで。今日は本当にお疲れ様」

「あ、はい……! お疲れ様でした」



あぁ、もう時間切れか……。

お互い車で来ているから帰りも別々なのは当然だけれど、恋人同士になれたばかりだし、やっぱり離れがたい。

でも椎名さんも疲れてるんだから、早く帰って休まなきゃね。と、名残惜しい気持ちを抑えつつ、運転席のドアを開けようとすると。



「千鶴」



ふわりと覆うように、背中から抱きすくめられた。

ドキンと胸が高鳴り、密着する彼の身体の心地良さに幸福感が広がる。



「本当は送っていってあげたいし、そばにいたいけど……休ませてあげられなくなりそうだから、今日は我慢するよ」