負け犬も歩けば愛をつかむ。

でもちゃんと伝えなくちゃと、彼の瞳をしっかり見つめて息を吸い込んだ。



「……私も好きです。出逢った頃からずっと、椎名さんのことが大好きです」



椎名さんの好きな所も、伝えたいことも、もっともっとたくさんあるのに、結局私の口から出たのはありきたりな告白。

私、本当に中学生みたい……。

それでも彼は、とても嬉しそうに瞳を細める。そして。



「んっ──!」



後頭部に手を回されたかと思うと、次の瞬間には唇が塞がれていた。


こ、こんな所で! もう誰もいないのはわかっているけど、一応会社なのに!

でも、それだけ椎名さんが私を欲してくれている証拠なのかもしれないと思うと、都合が良いけれどとっても幸せで。

彼が分け与えてくれる優しい温もりを噛みしめるように瞳を閉じた。


通じ合った想いを確かめ合うような、愛おしいキス。

わずか五秒ほどでその温もりが離れていくと、椎名さんは人差し指を立てて唇にあて、悪戯っぽく口角を上げる。



「皆には内緒な」



秘密の囁きに身体中が火照り出し、ふにゃりとしまりがなくなる顔を俯かせた。

そんな私の手を引き、彼は何食わぬ顔で厨房へと戻る。

その後は当然皆にからかわれながら、終始りんごのように頬を真っ赤に染めて仕事をこなしたのだった。