はぁぁぁぁ!?

飼われたくない飼われたくない! 椎名さんなら喜んで飼われるけど、この人には絶対飼われたくない!!

雄叫びを上げて危険な狼を突き飛ばしてやろうと、身体に力を入れた瞬間。



「──そんなことはさせません」



冷静さの中にも少しの焦りを滲ませたような低い声が聞こえ、私は専務の魔の手から抜け出していた。

代わりに飛び込んだのは白いコックコート。

腕を掴まれながら見上げたそこには、専務を睨み据える愛しい人の姿があった。



「椎名さんっ……!」

「仕事のことならいくらでも譲歩します。でも彼女だけは別だ」



──え? ……っと、それってつまり……?

椎名さんを見上げたまま、彼の言葉の意味をかみ砕こうとしていると、専務は前髪を掻き上げてクツクツと笑う。



「まったく……冗談が通じない人達だ。ご心配なく。僕は彼女のような、童顔で色気のない女性を好むロリコン趣味はないんでね」



ひっど! そこまで言わなくても!

何気に傷付く私をよそに、専務は何事もなかったかのように紳士的な笑みを張り付ける。



「それはさておき、今日はご苦労様でした。たくさんの料理を作っていただきましたが……」



そこで一旦言葉を区切り、真顔になって私達を見据える専務に、また酷評されるのだろうかと身構える。けれど。



「……美味しかったです、とても」



彼の口から放たれたのは、単純で最高な褒め言葉だった。