専務と張り合っている場合じゃない。早く戻ってパーティーの準備をしないと!

思いのほか道草を食ってしまった私は、急いでスルスへ戻る。

身支度を整えて厨房に入ると、すでに本社からのヘルプで来てくれた、自前のコックコートに身を包んだ調理師のおじさん二人がいた。



「春井さん、今日一日手伝ってくれる丸石さんと細長さんだよ」



椎名さんに紹介された二人は、まん丸太っちょの丸石(マルイシ)さんと、ひょろりと背の高い細長(ホソナガ)さん。

……なんて覚えやすい。助かるわ。



「丸石ですー。我々は洋食やってる人間だから、即戦力になるといいんだが。なっ、細長さん!」

「えぇ」

「助かります(色んな意味で)。よろしくお願いします!」



ニコニコしていてよく喋る丸石さんと、無愛想で寡黙な細長さん。

性格も対照的な二人だけれど、さっそく下準備を始めると手際の良さはさすがで、思わず見入ってしまう。



「勉強になるわー。俺も見習お」

「ホントホント」

「でも見惚れてる場合じゃないわね、私達もやること山ほどあるんだから」



おじさん達に注目していた私達に、椎名さんが「俺は何でもやるから声掛けてね」と言う。

作り置き出来るものから、調理をおじさん方と水野くんに任せて、私達は野菜を切ったり盛り付けをすることになっている。

椎名さんも交え、いつもと違う活気に満ちた厨房で、私達は各々作業に取り掛かり始めた。