「あっ、い、今お茶用意しますわね!」



目の前の麗しいお顔にぽわん、としていた私は、思い出したように発した園枝さんの声で我に返った。

そうだった、今は仕事中なんだから!

園枝さんは今にも椎名さんに抱きつきそうな真琴ちゃんを部屋の外へと押しやり、さっさと出ていこうとする。

椎名さんはそんな忙しない二人にも穏やかな笑みを向けて言った。



「あぁ、すみません。これからメルベイユの方にも挨拶をしに行くんで、お気遣いなく。ただ、春井さんを少しお借りしていいですか?」



ドキッ。さっそく二人きり?

突然名指しされてピクンと上がった私の肩に、水野くんが手を置いてにっこり笑う。



「どーぞどーぞ、少しと言わずいくらでも! 春井チーフは独り身でとーっても寂しい想いをしてるんで」

「んなっ……!」



余計なこと言うんじゃないわよ、このチャラ男めが!

はたして今の冗談にどんな返しをするんだろう、と動揺しつつ椎名さんを見やると。彼は一瞬驚いたように少し目を開き、私に微笑みかけた。



「そうなんだ? こんなに綺麗なのにもったいない」



──キ、キレイ!?

今まで言われたことがあったかどうかもわからない素敵な響きに、私の胸はきゅーんとしてしまう。

たとえそれが社交辞令であったとしても。私の脳内のお花畑は桜満開状態だ。