どこか切なげな、憂いを帯びた薄茶色の瞳。

それが妙に色っぽくもあって、吸い込まれそうになる。

どうしてそんな瞳で見つめるの……。

捕われたように目を逸らせないでいる私に、彼がさっきとは違う穏やかな口調で再び問い掛ける。



「具合が悪いのに、どうしてこんな時間まで残ってた……? 何か問題でもあったのか?」



何と答えたらいいか迷い、口をつぐむ。

“請求書を作るのを忘れていて、明日までに絶対に間に合わせなければいけないから”と、正直に言えばいいのに、言葉が出ない。


優しい椎名さんのことだ、こう言えばきっとなんとかしてくれるんだろう。

でも完全に私のミスで、そのせいで彼の責任が問われるというのに、助けてもらうのは何か違う気がする。何より申し訳ないし。


それに、こんな大事なことを忘れていたという事実を知られたくない、ずるい気持ちもあった。

“仕事の出来ない部下だ”って、彼に幻滅されたくない……。


黙ったまま考えを巡らしていた私を、椎名さんはその綺麗な瞳でまっすぐ見据えながら、優しく諭すように言う。



「泣くほど辛いことがあったなら言って。俺に出来ることなら君の助けになるから」



……本当にあなたはいい人なんだから。

でも、だからこそ迷惑は掛けたくないの。

揺らぎそうになる心をしっかり留め、私は笑顔を作ってみせる。