俺は専務より社会的ステータスも劣っていて、世渡り下手だし、さらには好きな人も奪われかねない状態だ。

だが、それでも。



「負けたくないんだ、男として」



様々な私情を挟んではいるが、仕事でも恋愛でも彼に負けたくない。これが本音だ。

栄養士のおばさんが言っていたように、ラクをすることは出来るが、それでは逃げているのと一緒。

真っ向勝負するのが男ってものだろう。

そんなふうに俺のやる気を引き出してくれているもの。原動力のうちの一つは君なんだよ──春井さん。


すると、彼女はその澄んだ瞳で、まっすぐ俺を見据えてこう言った。



「……大丈夫ですよ。私達は皆、椎名さんについていきますから」



しっかりとした、揺らがない口調で俺に与えてくれた言葉は、とても心強いものだった。

仕事中である今、上司と部下という立場をわきまえようとしているのに、彼女を抱きしめたくなるほど無性に愛しさが込み上げてくる。

俺はその衝動を押し止めながら、照れ笑いを浮かべていた。


こんな俺を頼って、信頼してくれる彼女が愛しくて堪らなくて。こんなふうに自分を抑えるのはそろそろ限界かもしれない。

だから──君が誰のことを想っていても構わない、俺の想いをすべて伝えよう。

そう、決意した。