負け犬も歩けば愛をつかむ。

「あの人とはそういう関係じゃありません。まぁよく一緒にいるから、社内でも誤解してる人は結構いると思いますけど……。私は頼まれるからついて行くだけなんです」



不服そうに言う彼女を見ていると、どうやら本当に専務とは何もないようだが、それならどうして……。



「嫌なら断ればいいのに、って思ってます?」



見事に当てられて曖昧に微笑み返すと、九条さんは一つ息を吐いて話し始めた。



「私と薫は家が近所で、小さい頃によく遊んでた幼なじみみたいなものなんです。学生時代は離れてたけど、この会社に入社してから再会して。だから情みたいなものがあって、突き放すことが出来ないんですよね」



「でも……」と、彼女はほんの少し表情を曇らせ、淡い黄色の波に揺れるカモミールの花に視線を落とす。



「薫は変わりました。彼の叔父の社長がワンマンな人で、なかなか薫や下の人の意見を聞き入れてくれなかったせいで、彼も人を信用しなくなった」

「メルベイユの社長のやり方に悪影響を受けた……ってこと?」

「えぇ。社長は、今はだいぶ丸くなったと聞いてますが昔は厳しい方で、なかなか薫の頑張りを認めてはくれなかったらしいんです。それから徐々に、薫は人に頼ることをしなくなりました」



専務にそんなバックグラウンドがあるとは。

若くして高い地位を築いている彼にも、やはり苦労があったんだろうな。