負け犬も歩けば愛をつかむ。

俺は女姉妹に囲まれて育ったせいか、女性客が多い店に一人で入るのも平気だが、世の中の男性でそういう場所が苦手な人は案外多いのではないだろうか。



「だから、男性店員が何人かいるだけでも違うんじゃない?」



ものすごく安易な意見だが、それを聞いた九条さんは目をぱちくりさせる。“目から鱗”という言葉が当てはまるよう。



「なるほど! 簡単なことだけど思い付きませんでした」

「それだけで改善されるとは思わないけど」

「いえ、参考にさせてもらいます! ありがとうございます」



瞳をキラキラさせる九条さんはなんだかとても生き生きとしていて、きっと彼女も仕事が好きなのだろうと感じた。

そんな彼女は、手元に置いたままだった資料を俺に差し出す。



「今度、記念日に女性への贈り物をする男性をターゲットに商品を考えることになったんです。だから、男性にも足を運んでもらえるお店にしなきゃと思って。これは女性へのアンケートなんですけど」

「記念日のプレゼントか。いいね、女性はお洒落な雑貨が好きだろうし」



アンケートを見やると、誕生日やクリスマス、そしてプロポーズされる時にどういう物をもらったら嬉しいか、などの質問がいくつか書かれていた。

こんな時にも頭に浮かぶのは、やはり春井さんの姿。

彼女に同じ質問をしたらどう答えるのだろうと、ぼんやり想像してしまう。