そして約束の火曜日、本社での仕事を終えると待ち合わせていたカフェへ向かった。
メルベイユと同じ通りにある、花屋が併設している小さなカフェ。店内にも花や観葉植物が溢れていて、なんとも癒される空間だ。
その中で、ウッドチェアに品良く腰掛けて何かの資料を眺めていた九条さんは、俺を見付けるとはっとしたように目を開いて軽く頭を下げた。
「すみません、お待たせして」
「いえ! ……本当に来てくれたんですね」
「え?」
「この間初めて話したばかりで、しかも急に誘ったから、約束すっぽかされても無理ないなって、今待ってる間思ってたんです」
肩をすくめて言う九条さんに、俺は小さく笑いながら向かいの椅子に座る。
「すっぽかしたりするくらいなら、最初から会う約束もしませんよ」
「……やっぱり優しいんですね、椎名さん」
「そんな大袈裟な」
柔らかく微笑む九条さんに俺も笑みを返すと、やってきた店員にお互い飲み物を注文した。
それは程なく運ばれてきて、アイスコーヒーで喉を潤した俺は、さっそく本題を切り出す。
「それで、相談っていうのは?」
「はい……」
九条さんはカモミールティーが揺れる透明なティーカップを静かに置くと、姿勢を正して口を開いた。



