負け犬も歩けば愛をつかむ。

魚屋のおじさんのおかげで自然に再会出来たものの、やはり二人きりになると気まずさが襲う。

何事もなかったように仕事の話をしてみても、それが拭えるはずもない。


もういっそのこと、気持ちを伝えてしまったらいいんじゃないか……?という考えが脳裏を過ぎる。

きっと君の気持ちは変わらないだろう。

だが、この間のことは俺が君を愛しているが故のことなのだと理解してほしい。



「春井さん、この間は──」



仕事が終わってから、会う約束を取り付けよう。

そう決心し、まずはこの間の件を謝ろうと口を開いた、その時。

廊下に繋がるドアが開き、出来れば会いたくはなかった人物が姿を現した。



「──あぁ、お揃いで。ちょうどよかった」



天羽専務……なんてタイミングが悪いんだ。

内心ため息を吐きつつ、表情は変えずに用件を聞いた。

すると、なんと彼から要求されたのは、メルベイユの創立二十周年を祝うパーティーの料理を作れというもの。

それ専門の業者に頼むのではなく、スルスのメンバーがすべてを行うという一大事だ。


そんな要求をされるのは、十年以上この仕事をしていて初めてのことで驚いたが、出来ないことではないからきっと引き受けることになるだろう。

それよりも俺は、専務の何か企んでいそうな言い方や表情が気になって仕方なかった。