負け犬も歩けば愛をつかむ。


それからしばらく社食の立ち上げの準備が忙しく、スルスにも出向くことが出来ない日が続いた。

新規で入るため会社の重役の方々への挨拶や、求人を募ったパートさんの面接を行うのも俺の仕事。

その間に他の社食から連絡が入ればそちらに出向く、という忙しい日々を過ごしていたのだった。

今日も「厨房の電球が切れた」という電話を受け、梯子に跨がっている最中だ。



「椎名さん、悪いわねぇ。私達にはここまで手が届かなくて」

「いーえ。俺に出来ることならやりますから、何でも言ってください」

「頼りになるわぁ。あの煎餅みたいな村田さんはなんにも手伝ってくれないんだもの、椎名さんに代わってくれて皆万々歳なのよ!」



梯子の下で俺を見上げながら、小柄なパートのおばさんが陽気な笑い声をあげる。

こんな雑用でも喜んでくれる人がいると、俺はいくらでもやってあげようと思うし、この仕事にもやりがいを感じるんだがな。



「監査の前でよかったわー」

「そうですね。掃除も頑張ってくださいよ」

「任せて! ここは掃除が得意なおばちゃんばっかりだから」



ガッツポーズを作るパートさんに笑いかけながら、スルスの監査もそろそろだなと思い出す。

春井さんはチーフになって初めての経験だから大変だろうな。

何事もないといいのだが……。