翌日はお互い休みではなく、俺は昨夜のことが尾を引いたまま仕事をしていた。

あの子は今どんな気持ちでいるのだろうか……と、少し暇が出来るとすぐに彼女のことを考えてしまう。



「……おい、おい椎名」

「ん?」

「お前、刺身にソース付けて食うの?」

「……あ」



スーツ姿の男達がひしめく真っ昼間の定食屋。

調味料と二人分のお膳を並べれば一杯になってしまう、小さなテーブルの真向かいに座る小野が、俺の手元に注目しながら言った。

よくよく見てみれば、今俺が新鮮な赤い鮪をダイブさせたのは、醤油ではなくソースではないか。



「せ、せっかく限定の刺身定食にありつけたのに……」



醤油とソースを間違えるというケアレスミス。

額に手をあて、がっくりと肩を落とす俺に、小野は大口を開けて爆笑した。



「椎名がちょっとボケてる所があるのは昔から知ってるけど、今日はいつにも増して酷いぜ? 何かあったのかよ」

「ちょっとね……」



ソース味の刺身を微妙な顔で味わい、店員のおばさんにもう一つ小皿をもらう。

そんな俺の様子が朝からおかしいことに、どうやら小野は気付いていたらしい。



「こんなにボケボケなんて、まさか恋の病とか?」



軽い調子で言われたが、思わず箸が止まる。

そのまさかだと言ったら、小野は驚くだろうな。