「わ、私こういうコト久しぶりで、どうしたらいいかわからなくって……。椎名さんが嫌ってわけじゃ全然ないんだけど、椎名さんとそういう関係にはなりたくないっていうか……!」



上気したままの艶めかしい困り顔で、目を逸らしながら一気に喋る彼女。

……当然だよな。

好きじゃない奴に抱かれるなんて、虚しいだけだろう。

これでいいはずなのに、胸が締め付けられるように苦しくて仕方ない。



「本当に止められなくなるところだった。ごめんな、好きな人がいるのに」



冷水を浴びせられたように急速に熱が冷めていき、俺は眉を下げる彼女から離れた。

顔を見れないまま寝室を出ると、閉めたドアに背中をもたれ頭を抱える。

……重症だ。

彼女を求める感情を、もう自分の脳ではコントロール出来ない。


頭を冷やそうとベランダへ出ると、涼しい夜風が次第に冷静さを取り戻させてくれる。

不意に、忘れていた昔の元カノの捨て台詞が苦い記憶とともに蘇ってきた。


“あなたはいい人過ぎて物足りないわ。もっと悪いオトコになってみたら?”



「余計なお世話だよ……」



巧みな言葉で彼女をその気にさせて身体を奪う。そんな“悪い男”ってやつに、なろうと思えばなれるかもしれない。

でも、そんなことで繋がったって意味ないんだよ……。


俺の深い深いため息は、ひんやりとした夜風にいくつも溶け込んでいった。