負け犬も歩けば愛をつかむ。

「し、いなさ──」

「無防備に寝られて何もしないでいられるほど、俺は忍耐強くはないんだよ」



心の中で嘲笑しながら、彼女の顔の横についた手をぐっと握りしめる。



「誰でもいいわけじゃないけどな……千鶴」



こうなるのは君にだけなんだ。

触れたくて、俺のものにしてしまいたくて、禁断の果実に唇を寄せる。

赤く艶やかなそれにひとたび触れると、その魅力にとり憑かれたように貪っていた。

その味は、感触は、中毒症を引き起こしそうなほど甘美だ。



「──ん」



彼女の鼻にかかる甘い吐息が漏れるたびに歯止めが効かなくなっていく。

このままじゃ、俺は本当に彼女を──。



「嫌なら抵抗して」



苛立ちを覚えたあの香水の香りも、今は彼女自身の香りと交わり別物になっていて、もうブレーキの意味を持たない。

俺を止められるのは、あとは君の意思だけだ。


だから警告しているのに、彼女は嫌がる素振りを見せない。

それどころか、彼女を求めて口内で動く俺に応えるかのように舌を絡めさせてくる。

俺のことが好きじゃないなら、引っ叩いてでも拒否してくれよ……。


そんな想いと裏腹に欲望はますますエスカレートして、Tシャツの中へと手を侵入させる。

そして温かい素肌に指先を滑らせた、その時。



「や……っぱり、ダメ!」



葛藤の末に無理やり絞り出したような声と、胸を押し返す手が、俺の動きを停止させた。