負け犬も歩けば愛をつかむ。

柔らかな髪に手を滑らせていると、すぐに眠りに落ちてしまった彼女。

今度は何度呼んでも起きてはくれない。

とりあえず会計を済ませようと、カウンター越しにいる店員の由尾さんに声をかける。

すると彼は、すやすやと眠る春井さんと俺を交互に見て、ニヤリと怪しく口角を上げた。



「兄ちゃん、飲ませるね~」

「いや、わざと飲ませたわけじゃないですから」

「まーどっちでもいいんだけどよ。今日はおでんの代わりにこのコをお持ち帰りして、アッツアツな夜を楽しんでくれ。
なーんてな! うまいこと言うだろ、俺。座布団一枚!」

「……ごちそうさまでした」



相変わらずテンションの高い由尾さんに、愛想笑いとお金を渡す。

そんな熱い夜を過ごせたらどれだけいいか。

なんて思いながら、春井さんの肩を少し揺すって声を掛ける。



「おーい、帰るぞ」

「ん……ふぁい」

「立てる?」

「ん~~にょいしょ。はははは」



カウンターから起こさせると、彼女の腕を自分の肩に回してなんとか立たせる。

軟体動物みたいにくにゃくにゃだ。しかも何故か笑っているし。

舌足らずな喋り方も、とにかく全てが可愛く想えて、含み笑いしながら彼女を支えて駐車場へ向かった。


しかし、俺は彼女のアパートの詳しい場所を知らない。俺のマンションから近かったはずだが……。