負け犬も歩けば愛をつかむ。

慣れないことで頭がパンクしそうになっている俺に気付くはずもない春井さんは、彼に対する強い想いを語る。

どうやら俺達は似た者同士のようだ。

本当に赤い糸というものが存在するのなら、求める心をまっすぐ繋いでくれたらいいのにな……。


一方通行の恋とはこういうものかと、身をもってその切なさを実感する自分を嘲笑いながら、二人で談笑を続けるのだった。



そして、あっという間に二時間が経過。

だいぶ酔いが回ってきた様子の春井さんを気にかけながらも、だらだらと話すのは心地が良くて、つい長居してしまう。

“帰ろう”の一言をなかなか切り出すことが出来ないでいると、ついに彼女はカウンターに突っ伏してしまった。


やっぱりもう帰るべきだなと思い直し、彼女を起こそうと少しふざけて色々な呼び方で呼んでみる。

「千鶴」と初めて名前を口にすると、その愛しさは想像以上に大きく感じ、思わず口元を綻ばせてしまった。すると。



「名前……もっと、呼んでください……」



とろんとした瞳にほんの少し頬を紅潮させ、甘えるような可愛らしい声でねだる彼女。

息苦しくなるくらい、愛おしさが込み上げてきてどうしようもない。

彼女の頭に手を伸ばし、まるで赤ちゃんにするかのように、優しくそっと髪を撫でながら言った。



「二人きりの時ならいくらでも呼んであげるよ……千鶴」



だから、他の男にはそんな表情で、そんなこと言わないでくれ──。