負け犬も歩けば愛をつかむ。

「……いるよ、好きな人」



それは君だよ、と素直に伝えられたらどれだけラクだろう。

こんなに近くにいるのに、心は遠く離れているのだと思うとやりきれなさで一杯で、自然と本音をこぼしていた。



「でも、その子は俺じゃなくて別の人のことが好きみたいだけどね」

「──え?」

「地位も容姿も、俺はその人には敵わないと思う。それでも諦めたくないってくらい、いつの間にか惹かれてた」



……そう、君の心が違う方を向いていても、まだ諦めたくはない。

久々に感じた、桃色の花びらに包まれるような温かくて愛しい気持ちは、日に日に強くなっている。

今はそれを手放したくはないんだ。


すると、春井さんは意外なことを口にする。



「私と一緒だ」

「え?」

「私が好きな人にも、他に好きな人がいるんで」



……専務にも他に好きな人が?

もしかして、さっきも一緒にいたあの髪の長い女性社員か?

いや、もちろん彼の交遊関係までは知らないのだから、誰を想っているのかなんてわかるはずもないが……

他に好きな人がいるなら、何故さっき俺にあんなことを言ったんだ? 春井さんに気があるようにも取れるのに。

ダメだ、考えるほどわからなくなる……。