その後、なるべく平静を装ってスルスに出向き、春井さんとも普段と変わらずに接した。
心の中では、微かな焦燥が沸き起こるのを無理やり押し殺して。
そんな時に起こった、水野くんとメルベイユの女性社員との一件。そして、今までと違った一面を見せた天羽専務……。
彼が水野くんのことをあんなふうに罵るとは思わず驚いたが、それは春井さんも同じだったようで、彼に対して怒りを露わにしていた。
……しかしその日の夜、歓迎会で送ってくれたお礼も兼ねて食事に行くことにしたのはいいが、俺の心はさらに乱されることとなる。
本社での会議を終え、逸る気持ちを抑えて雑貨屋へ向かうと、レトロなランプに照らされたガラス張りの店内に春井さんの姿を見付けた。
それだけで口元が綻び、足早に店内に入ろうとしたものの、彼女に誰かが話し掛けていることに気付く。
……天羽専務? 一緒にいたのか……?
仕事中とは違い、堅苦しさを感じない雰囲気で話しているように見え、針で突かれたように胸がチクリと痛む。
二人から目を離せないでいると、チラリとこちらを見た専務は、俺に気付いたのかは定かではないが、春井さんから離れるとすぐに店を出てきた。
彼の後ろからは、度々メルベイユで見掛ける女性社員が一緒についてくる。
俺に向かって会釈する二人に、俺も同じように頭を下げた。



