それに気付いているのは若干口元をヒクつかせる小野だけで、村田さんは笑顔のまま話し続ける。



「正直、マネージャーってのは雑用が多くて参ってたんだ。出先のパートさん達は『あぁしてくれ、こうしてくれ』ってうるさい人が多いし、切り捨てなきゃやってられんかったよ」



さも自分が大変だったかのように、パートさんのことを見捨てたとあっさり言う彼に、沸々と怒りが沸いてくる。



「椎名くんも、あんまり下っ端の人達の言うことまで聞いてると、自分の首を絞めるだけだぞ。
君は何でも言うこと聞いてるイエスマンのようだから忠告しておくよ。もっと言いたいことを言った方がいい。なっ?」



それがアドバイスか?

……何の役にも立たない。ただ俺を苛立たせるだけだ。

もう一度俺の肩を叩いて、上機嫌のまま去ろうとする彼に声を掛ける。



「じゃあ言わせてもらいますが」



不思議そうに村田さんが振り返り、隣の小野はハラハラした様子で俺を見ている。



「俺はパートさんの小さな意見でも見捨てません。あなたのように出先を回るという口実で、家に帰ったり必要以上に休んだりする時間があれば、彼らの意見だって聞けるはずです」



その瞬間、村田さんの煎餅顔がピシッと音を立てるように固まったのがわかった。

マネージャー職は外回りが多いため、どこで何をしているのかが不明なことがある。

本社にいる人間は気付かなくても、同じ仕事をしている俺にはバレてるんですよ、あなたが仕事だと偽ってサボってたことは。