今回村田さんが異動になるということは、誰かがその穴埋めをしなければならない。

普通に考えれば、下についている俺に彼の後釜を任せることになるのだろうが。

だからといってエリアマネージャーに昇進させてくれるわけでもないのが、この会社の……というか、人事も兼ねている総務部長の小難しいところ。

それを知っている小野は、“何で昇進させてくれないんだ!”と、俺以上に文句を言っている。優しい男なのだ。



「ほんとケチだよなぁ、うちの会社は……。よくやってるよ椎名」

「今は独り身だからな。それに、別に仕事が嫌なわけでもないし」



ずっと同じ場所で同じ仕事をしているより、あちこちで色々な作業をしている方が、自分には合っているように思う。

「そっか」と言って小さく笑う小野が缶コーヒーに口をつけた時、喫煙所のドアが開いて村田さんが出てきた。

丸顔で浅黒くて……いつ見ても煎餅のようだと思っていることは、口が裂けても言わないでおこう。



「お疲れさん」

「お疲れ様です。村田さん、購買部長になるんですね。おめでとうございます」

「おぉ、ありがとうな」



軽く頭を下げる小野に、嬉しそうに笑う村田さん。

エリアマネージャーよりも各部署の部長の方が若干位が高いのだ、そりゃ嬉しいだろうな。

村田さんはその笑顔を今度は俺に向け、ぽんっと肩に手を乗せてくる。



「俺の後は椎名くんに任せることになるだろう。サブマネの身分で気の毒だが頼んだよ」

「……えぇ」



嫌味か。顔には出さないが、温厚な俺でもさすがにイラッとするぞ。