「村田さん、購買部に異動になるらしいな。しかも部長だって?」



まだまだ肌寒い三月初旬。

本社の休憩コーナーで缶コーヒーのプルタブを開けようとした時、同期で生産管理部の小野がすぐ隣にあるガラス越しの喫煙所をちらりと見て言った。

その視線の先にあるのは、三階からの景色を眺めながら、煙草をふかす村田エリアマネージャーの姿。

一応サブマネージャーである俺の上司ということにはなるが、管轄エリアが違うためあまり一緒に働いたことはない。



「あぁ。また俺にお声が掛かりそうだなと思ってたとこだよ」



正直ありがたくないお声がね、と付け加えると、小野は苦笑して短い茶髪をポリポリと掻く。



「何で総務部長は余計な仕事を椎名に押し付けたがるかね」

「都合がいいからな。実際俺みたいに融通が利く奴はあんまりいないし」



サブマネージャー、と言えば聞こえはいいかもしれないが、要は“何でも屋”である俺の仕事。

取引先の挨拶に回る営業まがいのこともすれば、現場監督のように調理員にあれこれ指示したりもする。


その管轄の範囲が広くなったのがエリアマネージャーなのだが、俺はそこに一歩届いていない中途半端な状態。

だから、徐々に仕事量が増えていく割には給料が見合っていないと、ここ数年は感じている。

しかし、俺には守るべき家族がいるわけでもないし、生活に困っているわけでもないから、とりわけ不満を言わずにやっているというわけだ。