口を尖らせているけど、私は彼の言葉に密かに感心する。

やっぱりただのチャラ男じゃないのよね。どうしたら効率がいいか、ちゃんと頭で考えて動いてるもの。



「大丈夫よ、水野くん。私も手伝うから」

「だから“水野くん”はやめてってば」

「あ、でも今日マネージャーが来るんだった。そっちの相手することになっちゃったらゴメンね。水野くん」

「……ちづのイケズ!」



わざわざマスクを下げてあっかんべーをする子供はさておき、私は業務用の大きな冷蔵庫から人参やら大根やらを取り出す。

すると、シンクの辺りで包丁を握る真琴ちゃんが、何かに気付いたように「あ」と言って顔を上げた。



「もしかしたら、千鶴さんが求めてる“運命の出逢い”ってやつが、今日起こるかもしれませんよ?」

「は……何で?」

「新しく来るマネージャーですよ! 男の人なんでしょ? 昨日会ったっていうイケメンみたいな素敵な人が来るかもしれないじゃないですかぁ」



あぁ……たしかに、今日から来るこの辺りの食堂を管轄するエリアマネージャーは男性らしいけれど、私はまったくそんなこと考えていなかった。

だって今までのマネージャーは、丸顔でなぜか年中日焼けしているような……例えるなら煎餅みたいな浅黒いおじさんで。

きっと今回も同じような人だろうと思っているから。



「私は期待してないよ」

「うーん。三十五歳の独身で、マネージャーっていう肩書きもあるし、条件的には良さそうだけどねぇ」

「さすが園枝さん、すでにリサーチ済みですか」

「ふふふ。あの煎餅マネが担当外される前に、色々問い質しておいたのよ」