専務はデスクの引き出しから取り出した書類をパラパラとめくる。
あの見覚えのある書類は、私と椎名さんでまとめたパーティーのメニュー表だ。
「春井さんじゃなくて彼がこのメニュー表を持ってきた時、もしかしたらと思ったんだ。
君らが料理を取り分けるサービスを行うことの許可を求めてきたのも、大変だから当日のランチを無しにしてくれと頼んできたのも彼。それは全部、君を助けるためじゃないかってね。
相手が君だったら、僕は容赦なく重箱の隅をつつくようなことを言っていただろうから」
たしかに、意地の悪い専務のことだ。私が交渉していたら、すんなり認めてはくれなかったかもしれない。それどころか、さらに何か要求されていたかも……。
椎名さんはそれを見越して、『専務に話したいことがあるから』と口実を使って、私の代わりにここへ来てくれたってこと?
本当にそうだとしたら、いつから……どうして気付いたんだろう。
「仕事だから交渉するのは当然なんだが、それでも小言を言う僕に何度も頭を下げるのは、いい思いはしないだろうね。そうまでしてくれたのに、君は大事な請求書の作成を忘れていたなんて、彼が哀れに思えてくるよ」
椎名さん、何も言わなかったのに……私が嫌がらせをされないために、全部引き受けてくれていたなんて。
それなのに私は──。
いつの間にかそばに来ていた専務が、呆然とする私の顔を覗き込み冷たい視線と声を突き刺す。
「タイムリミットは明日の午後一時だ。それ以上は待てない」
綺麗な木目の床に視線を落としたまま、私は小さく「はい」と返事をして頷いた。
あの見覚えのある書類は、私と椎名さんでまとめたパーティーのメニュー表だ。
「春井さんじゃなくて彼がこのメニュー表を持ってきた時、もしかしたらと思ったんだ。
君らが料理を取り分けるサービスを行うことの許可を求めてきたのも、大変だから当日のランチを無しにしてくれと頼んできたのも彼。それは全部、君を助けるためじゃないかってね。
相手が君だったら、僕は容赦なく重箱の隅をつつくようなことを言っていただろうから」
たしかに、意地の悪い専務のことだ。私が交渉していたら、すんなり認めてはくれなかったかもしれない。それどころか、さらに何か要求されていたかも……。
椎名さんはそれを見越して、『専務に話したいことがあるから』と口実を使って、私の代わりにここへ来てくれたってこと?
本当にそうだとしたら、いつから……どうして気付いたんだろう。
「仕事だから交渉するのは当然なんだが、それでも小言を言う僕に何度も頭を下げるのは、いい思いはしないだろうね。そうまでしてくれたのに、君は大事な請求書の作成を忘れていたなんて、彼が哀れに思えてくるよ」
椎名さん、何も言わなかったのに……私が嫌がらせをされないために、全部引き受けてくれていたなんて。
それなのに私は──。
いつの間にかそばに来ていた専務が、呆然とする私の顔を覗き込み冷たい視線と声を突き刺す。
「タイムリミットは明日の午後一時だ。それ以上は待てない」
綺麗な木目の床に視線を落としたまま、私は小さく「はい」と返事をして頷いた。



