負け犬も歩けば愛をつかむ。

「九条さん、離し──」

「私は本当に椎名さんのことが好きなんです!」



彼女の声は一瞬雨音を掻き消すくらい、辺りに響き渡った気がした。



「好きな人がいることはもちろんわかってます。それでも諦められないくらい、私はあなたのことが……!」



声を震わせながらもしっかりと伝える彼女の言葉は、私の気持ちも代弁しているかのようだった。

ほんの少しの沈黙が訪れ、自分が告白したわけでもないのに、私の胸までもがドクドクと脈打つ。



「……ごめん」



──彼の答えは、私にとってはよかったもののはずなのに、まったく安堵出来ない。

だって、私もフラれたようなものなんだから。



「君の気持ちは素直に嬉しいよ、ありがとう。でも俺も君と同じで、彼女のことを諦める気はないんだ。……本当にすまない」



申し訳なさそうな声が聞こえた後、少しするとパシャンと水を撥ねさせる足音がして、椎名さんは私に気付くことなく、駐車場に向かって走っていく。

その遠ざかる姿を見ていると、なんだか無性に寂しくなった。