負け犬も歩けば愛をつかむ。

私が誰かにプロポーズされる日なんて、本当に来るのだろうか。

それよりもまず、今一番近くにいるこの彼とのことを考えないといけないのだけど。

ほどよい緊張感と安心感、コーヒーのビターな香りとクッキーの甘い香りが入り混じる二人きりの空間に、私の小さなため息が溶け込んだ。



「入力、どれくらいまで終わった?」



ふいに椎名さんから問い掛けられ、まったりしていた私は、すぐに頭を仕事モードに切り替えて姿勢を正す。



「あと三品分くらいで終わります。時間掛かっちゃってすみません」

「いや全然、早い方だよ。ありがとう」



普段はもうメニューは出来ているのだから、私がレシピを入力するなんてことはしない。

だから慣れなくて疲れるけれど、椎名さんの笑顔を見ると報われる気がする。

彼だって、いつの間にか私達が決めたメニューのレシピを集めることまでしておいてくれたのだ。私も頑張らないと。



「それが出来たら専務にも見せて確認してもらった方がいいな。金額的にも無理はなさそうだし、OKが出たらこれで発注かけよう」

「わかりました。じゃあメニュー表が出来たら専務に渡しておきますね」

「……いや、俺が渡すよ」

「え?」



いつも専務に用がある時は私が行っているのに、どうして椎名さんが?

彼はいつもスルスにいるわけではないし、私に任せた方が絶対効率がいいはずなのに。