負け犬も歩けば愛をつかむ。

九条さんと二人で話していたことに対しての嫉妬が、再びムクムクと芽を出し始める。

プライベートで近付くな、なんて言われてる私にとっては余計に羨ましい!

専務と深い仲だと思っていたのに、何であなたまで椎名さんを狙うのよ……まったく!



「春井さん?」



無意識のうちに顔を険しくしていた私は、名前を呼ばれてはっと我に返る。

いけない、今はプロポーズについて聞かれているんだった。



「あ、えぇと! 私はそうだなぁ……」



あのお嬢様の菅原さんだったら、給料三ヶ月、いや半年分くらいのダイヤの婚約指輪をもらいたい!とか言いそう。

私も昔はそんなベタな夢を抱いていたけれど、歳をとるほど現実的になっていって、そんな高望みしても無理だと思うようになった。だから。



「負け犬の私には、首輪がお似合いかな……」

「首輪?」



私の冗談に目を丸くする椎名さんだけれど、よく考えればいい例えかもしれない。



「首輪って、所有者がいるっていう証じゃないですか。それに、ずっと離れないように繋いでおくものでしょう? そういう“一生愛してる”って気持ちがわかるものが欲しいかな。確証を持たせてくれるものなら何でもいいんです。言葉でも何でも」

「……確証か。なるほどね」



真剣な顔で聞いている彼に気付くと、なんだか急に恥ずかしくなってくる。

私は「それが一番難しいですよね」と笑って茶化したけれど、彼は決して馬鹿にすることはなかった。