園枝さんが言うには給料もいいみたいだし、連休明けには「高級レストランが~」とか「海外行ってきた~」と話す人もいる。

メルベイユの社名は雑貨屋のブランドとして有名だし、主力商品の生活雑貨はお洒落で可愛いと大人女子に大人気。専門の雑誌を出版していたり、全国に雑貨屋を展開しているくらいだから、私の友達でも知らない人はいない。

そのくらい知名度もある有名企業なのだから、当然儲かっているんだろう。

そんないやらしいことを考えるたびに、この会社の中で働く私達だけは場違いのような気がしてならない。


このコックコートやネッカチーフ、腰に巻くタイプのエプロンも、メルベイユから私達だけに与えられた特別な制服。

本当はうちの会社指定の制服があるのだけれど、あくまでもスルスは“レストラン”らしく、厨房職員の外見にも気を遣われているのだ。

そんな格好だけ良くしたって、決して給料がいいわけでもなくプライベートが充実しているとも言えない私達が、メルベイユの社員のような勝ち組に入れるわけがない。

まさに“豚に真珠”……いや、“負け犬にジュエリー”とでも言おうか。


つい一ヶ月前の私は、このお洒落な空間で働けることを嬉しく思ったけれど。

いざ働いてみると、“毎日が充実してるオーラ”を放つメルベイユの社員との差を感じて、少し落ち込んでしまったりもするのだった。



……あーダメダメ、今はこんなこと考えてる暇なんてないんだから!

私は一つ息を吐いて気持ちを切り替えると、まだ誰もいない静かなその場所で、立て掛けられたボードに今日のメニューを書き始めた。