「結構いいトコに食べに行くとシェフがそういうサービスしてくれてるけど、それだけで豪華な感じがするし!」

「うん。いつもと違う雰囲気が出せていいかも」

「じゃあ、やる方向で考えてみようか」



決まったものをノートに書き込んでいく私は、なんだかワクワクしていた。

椎名さんを中心に皆が意見を出し合って賛同して、一つ一つメニューが決まっていく。

そんな、他人同士が同じ目標に向かって進むのは、学生の頃のグループ研究みたいな感覚で。

もちろんそれと比較にならないほど責任感はあるのだけれど、皆が一体化して仕事をするのは、とてもやりがいがあって充実していることなのだと感じた。



その日、私達が通常の業務を終えてもまだ椎名さんはデスクに向かっていた。

パソコンや各食品会社のカタログと睨めっこしながら、電卓やキーボードを叩いたり何かをメモしたり。

時折見せる、難しそうな表情で口元に手をあてて考える姿は、とても真剣でドキッとさせられる。

声を掛けるのも少し躊躇われたけれど、それでもコーヒーくらいは淹れてあげたくて、厨房で用意したそのマグカップをデスクにコトンと置いた。



「あ、ありがとう」



私を見上げた椎名さんは顔を綻ばせ、柔らかな笑みを見せてくれた。



「君も終わったら帰りなよ。鍵は俺が掛けておくから」

「はい……」