頬を膨らませてくるりと回れ右をした私はヒールではなく、スリッポンの踵をドシドシと音を立てて歩き出す。

雑貨屋の前をちらりと伺うと、当然だけれどもう椎名さんの姿はなかった。


二人で何を話していたんだろう。

九条さんの話からすると、きっと彼女が“相談したいことがある”とかうまいこと言って誘ったんだろうけど、下心見え見えなんだからそれに乗っちゃダメよ!

“優し過ぎる”と言って別れたという椎名さんの元カノの気持ちが、今は少しだけわかる気がするわ……。


愛車のもとに着き、足を止めて大きなため息を吐き出すと、少し冷静になる。


……いや、別に椎名さんが誰とどうしようと、私が口出し出来ることじゃない。

九条さんにあんなふうに言われてものすごく悔しいのは、自信が持てない自分のせいだ。

自分に彼を振り向かせることなんて無理だと、最初から決め付けて戦うことを放棄しようとしている私と、絶対振り向かせると自信を持って立ち向かう彼女。

負け組と勝ち組の、いい見本みたいね……。


九条さんに対して苛ついていたはずが、いつの間にか自分の不甲斐なさに肩を落としていた。

私は、彼を手に入れるためにどこまでのことが出来るだろうか──。