「……私より、彼の好きな人に言った方がいいですよ。たぶん、私じゃ勝ち目ないから」



あぁ、自分で負け犬発言してどーする私。

椎名さんには好きな人がいるんだからあなたも無駄よ、と遠回しに釘を刺しているつもりでもあるんだけど。

しかし、彼女から返ってきたのは意外な言葉だった。



「さっき聞きました。好きな人がいるってことは」

「え……そうなの?」

「はい。でも気持ちは変わりません。私、難易度の高い恋の方が燃えるんですよ」



えぇ、九条さんって案外体育会系!?



「今まで私に落とせなかった男はいないんで。どんな手を使っても、彼のことも振り向かせたいと思います」



強気な発言に唖然としていると、彼女は自信たっぷりの笑みを浮かべ、「では、失礼します」と軽くお辞儀をして踵を返した。

カツカツとヒールの音がエレベーターに吸い込まれていくのを、私はただ見ているしかない。


なに……何であんなに自信が持てるのよ。あれが勝ち組女の余裕?

“落とせない男はいない”なんてセリフ、一度言ってみたいもんだわ。

九条さんがあんなに嫌味な人だとは思わなかった!