「そういえば千鶴さーん、明日の味噌漬け焼きのサバってまだ来ないんですかぁ?」



午後一時。洗浄の途中でお茶で喉を潤しながら言う真琴ちゃんの、つるんとした卵肌を見るだけで口元がヒクついてしまう。

ごめんね真琴ちゃん、あなたにはその若さ以外何の罪もないのよ。と、心の中で謝る。



「魚屋さんの都合で午後になるって言ってたけど、そろそろ来ると思うよ」

「そっかぁ。じゃあ届いたら漬けるんで言ってくださいね」

「うん、ありがと」



再び洗浄へ戻る真琴ちゃんに笑いかけ、私もゴミを捨てに外へ向かう。ゴミ捨て場は一階にあるため、エレベーターで下りなければいけない。

大きなゴミ袋を手に厨房を出ると、廊下の方から声がした。

噂をすれば。魚屋さんが来たかしら。でも、いつも一人なのに何で話し声が?

そんな疑問を抱いている間に、廊下に繋がるドアが開かれた。



「こんにちはー」

「どうも、お世話様で……えっ!?」



姿を現したのは魚屋のおじさんではなく、なんと椎名さん。

しかもスーツ姿に似合わない、何十匹もの魚が入っているケースを両手で抱えている。

あの夜以来の再会にもかかわらず、その姿にびっくりして気まずさもどこかへ行ってしまい、私は目が点になった。