負け犬も歩けば愛をつかむ。

「もっとちゃんとメイクすれば絶対美人なんだから、張り切って狩りに行けばいいのに」



彼女が言う“狩り”というのは合コンや婚活パーティーのことだ。

もちろん彼氏は欲しいし結婚もしたいけれど、そういう場に頼りたくはない。



「私、そういうのは興味ないからいいの」

「そうそう、ちづは運命の出逢いを期待してるんだもんなー」



手を洗いながら答える私の後ろから、軽ーい声が投げ掛けられる。

私より五歳も年下のくせに思いっきりタメ口で、しかも“ちづ”と呼ぶのは、調理師の水野 涼太(ミズノ リョウタ)。

振り向くと、腰に手を当て大きな鍋の中をお玉でぐるぐる混ぜながら、私ににっこりと笑みを向ける。



「ちづは三十路なのに乙女でかーわいいよねー。俺でよければいつでも彼氏になるよ?」

「お断りします」



昨日のコンビニ店員君のような今時のイケメンなのだけれど、こいつの言動は空気のように軽い。

いつか流行ったお笑い芸人のように「君、カワうぃーねー!」と、誰にでも言っちゃえるんだから。