「あのさ、……散歩に行かないか?」
いきなり悠が病室を訪ねてきたのは、その日の午後だった。
屋上で会うことはあっても、病室まで来てくれたのは初めてだ。
「急にどうしたの?屋上じゃなくて?」
「ああ。たまには地面を歩きたいだろ?」
「そうだね。」
くすっと笑うと、悠もつられて笑った。
どうせ暇なのだから、悠について行こう。
依田さんに、悠をよろしくって頼まれたから。
って、やっぱりどうしても、私を助けてるのは悠の方だと思うけど。
廊下を歩きながら、ふと気になったことを尋ねる。
「悠のお父さんは、大丈夫なの?」
「いいから君は、歩くことに集中しろ。また転んだら、連れ出した俺の責任になるだろ。」
「せっかく心配してるのに。」
「大丈夫だ。父さんはちゃんと生きてるよ。」
まったくもう。
どうして、こういう口のきき方しかできないのだろう。
「どうしてまた、今日は私を散歩に誘う気になったの?」
「別に。何となく。」
「なにそれ。」
「煩いな。口にチャックでも付けてやろうか。」
ひどい言われ様。
渋々口を閉じて悠の後を付いて行くと、周りをキョロキョロしながら、悠が病院の裏に回った。
「いいか、静かにしてろよ。」
悠がそろそろと歩いていく。
そして、植え込みの中から何かを抱いて戻ってきた。
「ほら。」
「わあーっ!子猫!」
「シーっ!!!ばか。誰かにバレたら君のせいだぞ!」
「可愛い!」
悠の手から注意深く渡された、その小さな生き物。
グレーの縞があって、とてもふわふわしていた。
両手の中に入ってしまうほど小さくて、それでいて温かい。
「可愛いだろ。」
「うん!」
両手にすっぽりと収まってしまうくらいの、小さなネコ。
生き物の温もりに久しぶりに触れて、私は泣きたいくらいあったかい気持ちになる。
「ありがと、悠。」
そう言っても、悠は微かに頷くだけだった。
照れているのだろうか。
ネコだけでなく、悠もかわいい。
「あ、そろそろ検温の時間だ。」
「そうか。じゃあまた見に来ような。」
「うん!」
悠が、ネコをそっと抱いて植え込みに戻しに行く。
その後ろ姿をじっと見つめた。
退屈な入院生活を、退屈じゃなくしてくれる彼。
ぶっきらぼうで、不器用なその優しさが、空っぽの私の心に静かに染み渡っていった。
いきなり悠が病室を訪ねてきたのは、その日の午後だった。
屋上で会うことはあっても、病室まで来てくれたのは初めてだ。
「急にどうしたの?屋上じゃなくて?」
「ああ。たまには地面を歩きたいだろ?」
「そうだね。」
くすっと笑うと、悠もつられて笑った。
どうせ暇なのだから、悠について行こう。
依田さんに、悠をよろしくって頼まれたから。
って、やっぱりどうしても、私を助けてるのは悠の方だと思うけど。
廊下を歩きながら、ふと気になったことを尋ねる。
「悠のお父さんは、大丈夫なの?」
「いいから君は、歩くことに集中しろ。また転んだら、連れ出した俺の責任になるだろ。」
「せっかく心配してるのに。」
「大丈夫だ。父さんはちゃんと生きてるよ。」
まったくもう。
どうして、こういう口のきき方しかできないのだろう。
「どうしてまた、今日は私を散歩に誘う気になったの?」
「別に。何となく。」
「なにそれ。」
「煩いな。口にチャックでも付けてやろうか。」
ひどい言われ様。
渋々口を閉じて悠の後を付いて行くと、周りをキョロキョロしながら、悠が病院の裏に回った。
「いいか、静かにしてろよ。」
悠がそろそろと歩いていく。
そして、植え込みの中から何かを抱いて戻ってきた。
「ほら。」
「わあーっ!子猫!」
「シーっ!!!ばか。誰かにバレたら君のせいだぞ!」
「可愛い!」
悠の手から注意深く渡された、その小さな生き物。
グレーの縞があって、とてもふわふわしていた。
両手の中に入ってしまうほど小さくて、それでいて温かい。
「可愛いだろ。」
「うん!」
両手にすっぽりと収まってしまうくらいの、小さなネコ。
生き物の温もりに久しぶりに触れて、私は泣きたいくらいあったかい気持ちになる。
「ありがと、悠。」
そう言っても、悠は微かに頷くだけだった。
照れているのだろうか。
ネコだけでなく、悠もかわいい。
「あ、そろそろ検温の時間だ。」
「そうか。じゃあまた見に来ような。」
「うん!」
悠が、ネコをそっと抱いて植え込みに戻しに行く。
その後ろ姿をじっと見つめた。
退屈な入院生活を、退屈じゃなくしてくれる彼。
ぶっきらぼうで、不器用なその優しさが、空っぽの私の心に静かに染み渡っていった。

