そう、その日病室に入ってきた二人組。


その二人を見て、私は硬直した。



「前島、その……、大丈夫か?」



担任。

それから、私を怒鳴った教師。


黙ったままの私は、苦しくなって窓の外に目を向けた。



「あのな、その……、前島に謝らないといけないと思ってな。」



要らないよ、そんなの。

あなたたちに謝ってもらったところで、過去は変えられない。

私が倒れた過去も、母が事故に遭った過去も―――


それを知っているのに、敢えて私の前に姿を現すのは、ただの自己満足。



「前島、すまなかった。本当に。君の病気を知らなかったから、あんなことを言ってしまった。」



私は、泣くまいと強く唇を噛んでいた。

噛みすぎて、血が出てしまうのではないかと思うくらいに。



その時、がらっとドアが開いた。



「あの、そろそろ検査の時間なのでお引き取り願えますか。」



――え?朝田先生、今日は検査の日じゃないのに。



教師二人が慌てたように顔を見合わせる。



「いや、だって今日は面会が可能だと聞いて来たんですよ。」
「大切な話が……。」



朝田は、二人には見向きもせずに、真っ直ぐ私のもとへと歩いてきた。



「さあ、胸の音を聞かせてごらん。」


「へっ?」



いつもの朝田ではありえないことに、強引に寝間着の紐を引く。

そして、急に振り返って言い放った。



「いつまでいるつもりですか?セクハラで訴えますよ。」


「いっ、いや、そんなつもりでは!」
「では、次の機会に。」



しどろもどろになった教師たちは、そそくさと病室を出て行った。



「あ、さだ、先生?」



朝田は口元に笑みを浮かべながら、解いた紐を器用に蝶々結びにしている。



「余計なこと、しちゃったかな?」



ああ、私の為に先生は、演技をしてくれたんだ。

私を守るために―――



「いいえ。朝田先生、ナイスです!」



顔を見合わせて笑う。

ちょっとした、共犯者の気分。


だけど、私は逃げてしまったのだろうか。

考え込んだ私の顔を覗き込んで、朝田が言う。



「いそがなくていいんだよ、奈緒さん。今はこれでいいの。」


「はい。」



ありがとう、ありがとう先生。

いつも、私が欲している言葉を、温もりをくれて。

私がこれ以上傷付かないように。

これ以上、壊れていかないように。


守られることの安心感に、私はそっと身を委ねた―――