それから、検査のない日は毎日屋上に行った。

何をするでもなく、ただ屋上の彼と話すだけ。

でも、私にとって心が安らぐ時。


その日は屋上に行ったとき、珍しく誰もいなかった。

真っ白なシーツが風になびいて、清々しい天気なのに。



屋上の高いフェンスを見ていると、寂しい気分になる。

病気で弱って、希望も無くなって、死にたくなった人がここに来たとき。
この高さのフェンスを見たら、どう思うのかな。
きっと、自分一人の力では死ぬこともできない、自身の無力さに打ちひしがれるんだろう。


「いたんだ。」


背後から声が聞こえて、急いで振り返った。


「原田君。」


「親父の見舞いに来てるんだ、俺。」


何度も会っているのに教えてくれなかったことを、彼はやっとつぶやくように言った。


「お父さんの……。」


「末期ガンでさ。」


「そうなんだ。」


二人で、うつむいた。

病院って、悲しみが溢れるような場所だと思った。


「私のお父さんは、ずっと前に死んじゃった。私と同じ病気で。」


はっとした顔で、彼が私を見る。


「知らなかった。……なんか、すまない。」


「知らなくて当たり前だよ。話してないし。」


「まあ、そうだな。」


そう言って、弱々しく笑う彼。

なんだか、その細い背中にたくさんのつらさを背負って生きているような彼。

私だって、同じなのかもしれないけれど―――



「俺たち、似た者どうしかもな。」


「そうだね。」



今まで、自分のことを話そうと思った人は誰もいなかった。

打ち明けたって、重すぎて嫌がられるって思ってた。

だけど今、似た者同士の彼になら話せる。

どんなことでも、どんな悲しみも打ち明けられる。



「奈緒、」


「え?」


「いや、すまない。苗字が出てこなかった。前島、だったか。」


言い訳がましい彼に、私は笑顔を向けた。


「いいよ、奈緒で。その代り、悠って呼んでいい?」


「あ、ああ。」


悠は、頭をかきながら笑った。


「なんか俺、君といると調子が狂う。自分じゃないみたいだ。」


「ふうーん。」


「君が、ドジだからだ。」


これは、正真正銘の言い訳だったけれど。