昼休み、小冬は鈴実から本を受け取ると、特別約束したわけではないが、二人は図書室へと向かった。



図書室は、外が晴れているからか、人はまばらだった。



鈴実は棚の1つから本を取り出し、1、2ページ読んで戻すという作業を繰返し、



3冊目くらいで、本を戻す手がピタリと止まり、表紙と裏表紙を交互にじっくりと見つめた。


好みのものを見つけたのか、愛しそうにそれを抱えると、


一番後ろの窓側のテーブルの、



さらに窓側の一番後ろの席に座った。



小冬はそのテーブルの横にある小さな棚の前で突っ立っていた。



本を探すわけでもなく、棚に背を向け、自分の貸した本を片手で抱えている小冬を、鈴実は不思議そうに見上げた。



鈴実と目が合い、小冬は自分が見とれてしまっていたのだということに気づく。



遠慮ぎみに鈴実の斜め向かいの席に座った小冬は、誤魔化すかのように本を開きページをめくった。



最初の三行を読むと、小冬は恐る恐る顔をあげる。



斜め向かいに座る鈴実は、すでに読書に集中していて、なぜだか自分だけおいてかれてしまったような気さえした。



それほどまでに鈴実の活字をとらえる目は真剣で、楽しそうだった。



小冬は手元の本に無理矢理視線を戻すが、彼女は落ち着きなく何度も顔をあげた。



やっと目があった頃には昼休み終了の時間になっていて、



ゆっくりとまばたきをした鈴実に、



小冬は微かに頬を赤く染め、全く読み進められていない本で顔を隠した。


そんな小冬の態度が気にはなったが、特にそこまで訊いてきたりはしなかった。



「どこまで読んだ?」



その代わり読書の進み具合を問うた。



「え、…え?」



少し戸惑ってから、



「ごめん、全然進んでないや」



小冬は申し訳なさそうに答えた。



「いいよ。家で読んで?」



柔らかく微笑んだ鈴実に、小冬は、黙ったまま大きく頭を縦ることしか出来なかった。



ある日の昼下がり。






斜め前の美人END