「ところで棗、それでどうなの」



マンション入り口。



または信号の少し手前。


中学生三人は、帰ることを惜しみ、そこで立ったまま話し込んでいた。



下校中のよくある光景である。



まだ日は明るく、少女たちが帰る様子は見られない。



やや耳障りな笑い声をあげていた美優紀(みゆき)が、ふと棗にふった。


「それでって…?」



「冬樹(ふゆき)君!あれから何かあった!?」



「な、なにもないよ…」


いわゆる“恋バナ”



棗は恥ずかしそうに顔を背け、その長い髪を指に巻き付ける。



ハルは一瞬だけ顔をしかめ、斜め下の方へと視線を移した。



「美優紀こそどうなの?」



棗の切り返し。



「あたしは…そ、卒業式とか…に」



「告白!?」



会話の主導権が棗に戻る。



顔を分かりやすいまでに赤らめたのは美優紀。



ニヤニヤとした笑みを浮かべ美優紀をからかう棗を、ハルは少し冷めた顔をして見つめていた。



少女たちの話題は、またすぐに切り替わる。



「ハル、なんか今日機嫌いいね?」



「そう?私には悪く見えるけど」



美優紀の言葉に、棗は軽くハルの顔を覗きこむ。


「別にいつも通りだよ」


明るく返したつもりのハルだったが、その顔はどこか陰っている。



視線は定まらないし、どこを見ているのかも分からない。



あるいは、どこも見てはいないのかもしれない。


……もしくは、見たくないものでもあるのか。



信号の色が変わる。



潔く別れを切り出したのはハルだった。



「もう帰るの?」



「うん。また明日、学校でね」



笑顔で手を振り合い、横断歩道を駆けた。



そのさきで二人を振り返る。



並んであるく棗と美優紀。



棗だけがハルともう一度目があう。


小さく手を振り、すぐに向き直る。





一人下校する少女の顔はさびしげで。



少女には、どうしてそうなってしまうのか、分からなかった。



さっきまで楽しかったはずなのに、気分が沈む。


家につき、着替え、自分の部屋のベット。



布団にくるまった。



胸に残る痛み。



――辛い



目をつむり、再び開ける頃、初めて気付く。



「…あたし、嫉妬してたんだ。」



たった30秒にも満たないその間を、ハルは繰り返し傷んでいた。



明日になれば、きっと消えているほどの



小さな小さな嫉妬心。






苦くて甘いだけEND