春休み。



加南子は友人である美優紀と共に隣町に出掛けに来ていた。



あれから加南子は見事第一志望である南沢高校に合格し、



美優紀も加南子とは違う近所の公立高校に入学が決まった。



ショッピングモールの7階、文具コーナーにいた加南子。



そこにいたある人物が目に留まった。



「みっちゃん、みっちゃん」



美優紀の服の袖を引っ張り、小さな声で名前を呼んだ。



「どうしたの?」



「あれ、たぶん受験の時の監督の人だよ!」



礼服ではなく、普段着。


だけど一つに束ねられたややクセのついた髪と緑の髪留め。



それにパンツ姿という目印は変わっていなかった。



「よ…よく覚えてるね」


「だって面接のときも教室で見張り役だったんだよ!?」



「いや…だからってさすがに忘れるでしょ。こんだけ日が経ってるんだし」



テンションが上がり興奮気味な加南子は、やや引いている美優紀に気付かなかった。



「挨拶、してこようかな…」



「まじ?」



何度も首を縦に振った。


「むこうは加南子のこと覚えてないと思うよ?」


「だからだよ。覚えてもらうの」



「別に今からじゃなくてもいいんじゃない?」



「だめ!!」



すぐそこにいる彼女に聞こえてしまうのではないかというくらいの声で強く否定した。



美優紀も圧倒され一瞬固まってしまう。



「先生未満の今のうちに…皆よりも、特別になりたいの」



そこで加南子はハッとして口をつぐんだ。



「………特別って?」



美優紀に聞き返され、頬を真っ赤に染めた。



「だ、だからちょっと行ってくるね」



フライングをしたのは、先生の気持ちじゃなくて、加南子の気持ちの方。


「あ、あの!私、この春から貴校に入学致します笹木加南子です!」



そんな、まだ桜も蕾の3月のこと。






先生未満END