「雫の好きな子が、非のうちどころもないような子で、嫉妬してたんだよ」



「棗ちゃん、今なにしてるかな」



懐かしむようにその名を口にした雫。



雫は中高一貫の私立中学を受けたため、楊子と棗とは違う中学だったのだ。



「彼氏さんはまだいないみたいだけど」



「そっか。じゃあやっぱり告白、すればよかったかな」



「やだ」



冗談めかしてそう言った雫とは真逆の冷たい声色で言い切る。



「なんでやだ?」



「だから、好きだったんだって」



分かってよ、とでも言いたげに、じっと見つめた。


「それ、さっき聞いた」


その視線に堪えたような素振りも見せず、しかし応えることもなく、雫は言う。



「まに受けてないでしょ」



楊子は溜め息混じりに、そっと視線を外した。



「そんなことないよ」



「まだ棗ちゃんが好き?」



「まさか。ヨウは?」



「まだ雫が好きだよ」



恥ずかしげもなく真っ直ぐに伝える楊子から、言葉とは裏腹に、もうあの頃のような想いを抱えてはいないということが分かった。



「もう…この話は止めようか」



「そうだね」



苦い顔の雫とは対照的に、楊子はとても満足そうに立ち上がる。



二年前。



二年前にお互い触れまいとした心を、今になってさらけ出した楊子に、雫が応えられるわけもなかったのだ。



なにも分からなかった頃とは違う。



雫はただ、自分が後悔しているということを、認めるわけにはいかなかった。



自分が逃げたことに、向き合いたくなかっただけなのかもしれない。





14歳END