欠伸をしながらふと黒板の方を見ると。
咲哉くんと目が合う。
タイミング悪く咲哉くんに見つかってしまった。意地悪な笑みを見せた咲哉くんは教科書の問題を一門黒板に書き始める。短いがよくわからないほど複雑なその数式はすぐに書き上げられ。
「じゃあこの問題をテストが近いのに大あくびをかいた莉々花。解け」
……何の嫌がらせだよ。
クラスメイトの女があたしに向かって強い眼光を飛ばしているのを肌で悟る。
ひえええええ。こわ。
咲哉くんを軽く睨むけれど、今度は満面の笑みを向けられたので今度こそ立ち上がった。
教団まで歩いて言って片手にチョークお持ち黒板を見るが……。
全くわかんない。
「ほらほら、さっさと書け」
確信犯であろう咲哉くん。
全く高校の勉強をしてないあたしにこんな問題無理だって。
それを目で伝えると、教壇から降りていた咲哉くんはヒョイっと段差を乗り上げて「どれどれ~」と、あたしの顔のすぐ近くに咲哉くんの首筋が寄った。
ふわり、タバコの混じった優しい匂いが香る。
確か最後にこの香りを感じたのは龍翔が熱を出した日以来で……。あの日から咲哉くんに少し近づきにくくなったあたし。だから授業以外で顔を合わせることもなかったし、至近距離に小さく胸が鳴ったのもおかしいことではない。