「ねぇねぇ、莉々花ちゃん。今日暇?」
あまりの天気のよさに、中庭で紙パックジュースを片手にダラダラしていた時。
そこそこ顔の整っている男に話しかけられた。
「んー。忙しい、かなぁ」
ガシガシと噛んでいたストローから口を離してちらりと男を見る。
でも乗り気になんかなるわけなく、ヘラっと笑って意識をまたジュースに戻した。
これがあたしのお昼ごはんなんだから邪魔しないでほしい。
「えぇ、やっぱりあの噂って本当?」
もう一度男を見ると、にこりと笑っていた。
「噂って?」
「かの有名な櫻井莉々花はついに一人の男に落ちた、って」
かの有名……ってあたしは芸能人か何かか。一般人だよこのやろう。
「ふぅん」
でも噂が回るのはもう慣れっこなので、最近は遊びをやめたからまぁ噂ぐらいたつのかな、と他人事のように思った。
「あれ、反応薄いね」
ケタケタと笑った男は立ち去るわけではなく、それどころかあたしが座っているベンチの隣に座った。
密着、なんてことはないがまぁそれなりに距離を詰めて座られた。
「近い離れて」
「そこはベタベタ腕でも組んでこようよ?」
乗り気じゃないの、とぐしゃりと空になった紙パックを握りつぶして立ち上がった。
もうここには用はない。
「なぁんだ。もう行っちゃうの?」
「サヨウナラ」
ヒラヒラと手を振って追いかけては来る気配のない男から遠ざかった。
何だったんだ、あの男。